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書評感想27 『根無し草 ヤマギシズム物語1学園編』 日本のコミューン・ヤマギシ会の実体験が語られる1冊

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書評感想27 『根無し草 ヤマギシズム物語1学園編』 日本のコミューン・ヤマギシ会の実体験が語られる1冊

著者:守下 尚暉
出版日:2019年10月 410P程
カテゴリ:ヤマギシズム学園高等部卒業生による実話
おすすめ度:10点中7点(読んでいてしんどい描写もあるので万人におすすめできるという感じではないかもです)

 

内容と感想

いわゆる「コミューン」と呼ばれる共同体
その中でも農業を基盤とした現在も実在するコミューンであり
日本各地に支部があり、アメリカやオーストラリアなどいくつか海外にも支部があり、三重県豊里に本部がある
「幸福会ヤマギシ会」
1953年に山岸 巳代蔵氏が創設し、
優れた養鶏技術をはじめ、農業を基盤とした共同体へ。
特に勢いのあった1980年代後半
ヤマギシズム学園高等部に実際通っていた著者から見た
ヤマギシ会が語られています。青春小説的な側面もあります。

日本の中にあって日本の法律や常識で動いていないところがあるというか
そういう意味では非常に印象深い話でした。
内容的には読んでいても物理的に結構しんどい描写もありますが・・・
ヤマギシ会に関する書籍としては
ヤマギシ会で育った高田かや氏による
『さよなら、カルト村。』などの3部作も面白く興味深いですが
(当時のヤマギシ会について実情を知りたいなら、この3部作を読むのが一番わかりやすいと思います。マンガ形式で読みやすいですし)

『根無し草』この本も著者の方から見たヤマギシ会に関する事実が語られています。
著者は男性ということもあってか、暴力もかなり過激に受けたとのことです。

 

〇主な内容としては

・著者がヤマギシズム学園高等部で過ごした3年間の軌跡。成長や葛藤・恋愛。
・ヤマギシ会の教えの中でも、特に厄介なものが「子供らしさ」で、親の言うことを何でも「はい」と聞くのが正しい姿とされた
・「特講」と言われる特別講習研鑽会の内容や、子供向けの合宿「楽園村」について
・「世話係」と呼ばれる大人からの暴力や理不尽な説教
・家畜の世話や農作業といった職業訓練的なカリキュラム
・基本的に1年365日「休日」という概念はない。(体調が悪い日は実質休みとなるが)
・学校内での自殺事件や情報統制
・ヤマギシでは「家庭研鑽」と呼ばれる期間以外に親子が接する機会がない
・敷地内からの外部への手紙などは世話係の検閲が入ることがあり、内容によっては没収される
・世話係の心証を悪くすると罰として監禁されることがある
・ヤマギシ会の村人になる人は全財産を寄贈する
・お金を扱う機会が極端に少ないetc

 

〇感想

突っ込みどころが多くて突っ込みきれないところもありますが
ファンタジーではなく現代の日本で現実にあった話です。
殆どの生活がヤマギシ会のコミュニティ内で完結する感じで(中学までは普通の学校に通うとのことですが)正に日本の中にあって日本の常識で動いていない場所
ある意味、上級生が神様的存在になる一部の体育会系の部活などと同じではありますが
そういう異世界が生活基盤から何まで大規模に行われていることに驚きます。

 

否定的に見てしまう部分もありますが
農業や、自給自足、物の共有という考え方であったり、村人の人は望んで「ヤマギシ会」を受け入れている人も多くいると思われ
そういう組織を作り上げたということは
ある意味そういう世界が好きな人にとっては、いわゆる日本の普通の社会より良いのかもしれませんし、そこは否定しません。
漫画『デスノート』の主人公

夜神ライトの台詞
「僕は新世界の神となる」

は有名ですが
正に創始者の山岸さんとしてはヤマギシズムという生き方を提案した「新世界(ヤマギシ会)の神」、「新世界の布教者」といった感じでしょうか。
正直、ある意味ではめちゃくちゃ凄いと思います。

ただし、そんな簡単に理想郷が作れるわけではなく、作中でも世話係による理不尽な対応や暴力などひずみは出ていますが・・・

もしかしたら例えば「ひきこもり」と呼ばれる人たちが
こういうヤマギシ会のような場所で自然と触れ合い
何かしら作業に従事して自給自足して
生活の充実感を得られるとしたら、それは良いことな気もしたりしますが
(大きなお世話だと思いますが)
8050問題などもあり・・・しかし50代の時点で長時間の農作業などは体力的にきついかもしれませんが・・・

 

個人的には読んでいてこんな世界があるんだっ ということで
面白い本でした。
著者の方は最終的にはヤマギシ会のやり方に嫌気がさして高校卒業後は脱ヤマギシを計画したとのことでした。
本のタイトルが学園編1、ということで
もしかしたらいつか脱ヤマギシした物語パート2が描かれる可能性もあるのかもしれません。

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